『蛍火の杜へ』緑川ゆき

  • 2007/12/16(日) 02:06:45

自分的に吉田秋生『櫻の園』以来の傑作短編集に出会いました。
感動したのでレビューします。今日は第一話目「花唄流るる」です。

蛍火の杜へ (花とゆめCOMICS)蛍火の杜へ (花とゆめCOMICS)
(2003/07/05)
緑川 ゆき

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*致命的なネタバレはしないつもりですが、ある程度のストーリー説明はします。


「花唄流るる」
美化委員の島は、掃除中に旧校舎からいつも聞こえてくるギターの音が気になります。
ひょんなことからその音色は、同級生(クラスは別)の藤村君が幼なじみの美可子先輩に
ギターを教えているものだったのだと知ります。
悪そうだけど意外に話しやすい藤村に惹かれていく島。
でも藤村は卒業間近の美可子先輩が好きで…


「あっ、と思った時には もう落ちているものなのよ」
藤村のことを気にかける島に、友達がかける言葉です。
その言葉通り、島はきっと出会った時から藤村に恋をしていました。
でもそれから先、彼らの間にはただ淡々と時間が流れていくだけです。
いかにも漫画的な盛り上がりエピソードもなく、しかし彼らのセリフの端々からは
胸が詰まるような切ない想いが溢れています。

「好きなの?野口先輩のこと」
「…ずっとそばにいてくれた人なんだ そのことに安心してしまってた
最近彼氏ができたらしい 俺と違ってすごくやさしい人なんだ」

「………藤村くんもやさしいよ」
「へぇ」
…届かないか 私の言葉じゃ

改まって言わなくても、特別だと前置きしなくても、
私の特別な想いをあなたへ伝える術はないだろうか。
私とあなたの想いに差がありすぎては、ダメだろうか。
ひっそりと自分の無力さを痛感する島。
しかし藤村は藤村で同じような想いを抱えているのです。

「イライラなんて言葉使うなよ? 藤村は少し言葉がきつい」
「……おれのそういうところがダメだった?」
「え?何だって?」
「―――別に 大したことじゃない」

届いて欲しい、届かないで欲しい、相反する気持ちが綯い交ぜになって
結局胸にしまいきれなくて口にしてしまった言葉。
―――届かなかったなら、それでいい。

あーもうせっつねえなぁ!
藤村がね、悪そうだけど意外にいいヤツって言ってしまえばまあありきたりなんですけど
その「意外といいヤツ」エピソードが他の少女漫画とは一味違ってね。
主人公のことを「島さん」って「さん」付けで呼んだりとか。
何故か少女漫画って、女は男を君付けで呼ぶのに
男は呼び捨てがデフォみたいなとこあるじゃないですか。
幼なじみ設定とか悪友設定だとお互い呼び捨てもありますけど、
男が女を「さん」付けで呼ぶのってかなり珍しい気がします。
しかも藤村みたいなちょいワルキャラが。

遅刻してきた藤村を教室の窓から見つけた島が手を振ると、
無愛想に手を振り返してくれたりね。
そんなことされたら確実にフォーリンラブです。

二人の想いの行く末をご堪能ください。

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